2016/02/07

Berliner Morgenpostの原口元気&久慈修平インタビュー

2016年2月7日 06:00
日本人トップ対談
ヘルタの原口とアイスベーレンの久慈から見たベルリン
http://www.morgenpost.de/sport/article207014363/Was-Herthas-Haraguchi-und-Eisbaer-Kuji-an-Berlin-lieben.html


M. Stein / J. Lange

アイスベーレンの久慈修平とヘルタの原口元気が、ベルリンでの挑戦、ドイツの文化、眠そうなチームメイトについて語る。

ベルリン。まずは遠慮がちに型通りのお辞儀をした。1回、2回。ヘルタのウィンガー原口元気(24)とアイスベーレンのフォワード久慈修平(28)は、故郷を遠く離れても自国の礼儀作法を守るのだった。大きな声で挨拶をするでもなく、握手や肩に手を回すようなしぐさもない。ヘルタのメディアルームで撮影が行われる前に少し言葉を交わしただけだ。こうして恭しく距離を保ったまま対面した二人の日本人だったが、お互い好奇心を抱いていることは感じられた。


ベルリーナー・モルゲンポスト原口選手、久慈選手、お二人は9月から同じベルリンを拠点としていますが、顔を合わせたことは一度もないそうですね。お互いについてはどの程度ご存知ですか。

原口元気:正直なところ、あまり……日本人がベルリンでアイスホッケーをしていることはツイッターで知ったぐらいなので。

久慈修平:元気さんは日本でかなりの有名人です。日本にいるときから個人的にお会いできたらいいなと思っていました。


お二人の出身地は約1万キロメートルのかなたです。ホームシックにかかったときはどうするのですか。

原口:ホームシックになると思われているのかもしれないけど、実際はあまりないですね、ここの生活にすごく満足しているので。10月からは妻がベルリンに来てくれていますし。家族や友人に会いたくなるときももちろんありますよ。でもそれを辛いと感じることはないです。

久慈:僕は一人暮らしですけど、自由を満喫しています。チャットや電話ができるアプリを使っている日本人は多いし――日本と連絡を取り合うのにそう苦労はしていません。


プライベートが快適であることは、トップパフォーマンスを出すためには欠かせないものですか。

原口:一番大事なのは健康。体調が整っていれば、他のこともうまくいきます。

久慈:ストレスを抱えすぎるのはだめですね。うまくいっていないことを気にしても何にもなりません。前向きでいることです。


そう簡単なことではない。だからこそ久慈修平は多くを学びにアイスベーレンにいるのだ。スケートで速く滑ることができる、それではドイツ・アイスホッケーリーガで続けて出場機会を得るには十分ではない。まだ1得点も挙げていない久慈だが、ファンへの感謝という意味でもゴールこそが大きな目標となっている。だが、今はファンたちも久慈の不在を受け入れるしかない。彼は日本代表としてオリンピック予選を戦うために日本にいるのだ。一方の原口はヘルタで2シーズン目を迎え、レギュラーに定着している。彼の願いは、ヘルタのチャンピオンズリーグ出場、日本代表のワールドカップ出場に貢献することだ。19試合1得点と、最もゴールの匂いのするベルリーナーというわけではないが、それでもインタビューにおいては常に最も人気のあるプロ選手だといえるだろう。


試合後に日本人ジャーナリストの集団に囲まれていることがありますよね、原口選手。アイスベーレンの試合でも日本人記者が来ているのをよく見かけます。

原口:ブンデスリーガは全部ではないけれど日本でもテレビで放送されているし、インターネットでもよくニュースになります。人気は高まっていますね。

久慈:それはアイスホッケーでは夢の話ですね。メディアではこのスポーツはごく限られたところでしか行われていないので――日本の北部、北海道だけで。


それでもプロとして海外でプレーする選手への関心は高いのでは。

原口:日本は島国で、メンタリティにも言語にもそれは表れています。日本人の多くは日本語しか話しません。海外に挑戦する人はそれだけで尊敬されるようなところがあります。


ヨーロッパへの移籍を決断するのは難しかったのですか。

久慈:日本のアイスホッケー選手は世界では特に注目されるような存在ではなかったので、オファーがほとんどありませんでした。自分にとっては非常に大きなステップ。僕はいわゆるパイオニアなんです。


原口選手はブンデスリーガ所属の日本人10選手のうちの一人です。ドルトムントの香川真司はアジアではポップスター的存在であり――原口選手のツイッターのフォロワー数はヘルタBSCよりも多い(※訳者注:2016年3月11日現在ではヘルタのフォロワー数が上回っている)。日本で気付かれずに出歩くことはできるのですか。

原口:浦和ではほぼ無理ですね、実際よく知られているので。ベルリンでは邪魔をされることもなく自由に歩けます。これはすごく快適ですね。


オフの時間の過ごし方は。

原口:僕はあまり行動的な方ではないです。だいたいは家にいて、ソファーで寛いでいます。あとは犬と近所を一周したり。

久慈:僕もどちらかというとインドア派です。ありがたいことにYouTubeがあるので!日本のテレビドラマを毎日見ています。


ベルリンに住むこの二人の日本人は似たタイプなのか、一方が答えるともう一方がそれに賛同してうなずく場面が多かった。それでも、スポーツ選手たちの裏の顔に迫るのはそれほどたやすいことではない。このインタビューの状況で思い出すのは、映画『ロスト・イン・トランスレーション』だ――詳しく答えてもらったかと思うと、その後にはたいていごく簡素な通訳が続くのだ。言葉、それもまたテーマの一つだ。久慈はチームの中では簡単な英語で意思疎通しており、困ったときは翻訳アプリの力を借りている。さらに困難なのは日常生活だ。より良い乗り切り方を身に付けるべく、原口はドイツ語を勉強している。


ドイツに慣れるのは大変ですか。

原口:初めは食べ物も言葉もやり方もすべてが新しくて。ラッキーだったのは、ヘルタにはすでに日本人、それも浦和時代から面識のある細貝萌さんがいたことです。すごく助けてもらいました。この点では修平さんの方が難しかったんじゃないかと……

久慈:まあ、僕も日本代表で面識のあったマーク・マホン元コーチという支えがいましたから。今は彼がいなくてもうまくやっていけるようになりました。


ドイツらしいなと感じることは何ですか。

久慈:ドイツ人の選手には朝ものすごく眠そうな人がいる(笑)。でも氷の上に立つとすぐ集中力を上げてくる。僕ら日本人は練習の1時間前から準備をして、少しずつ高めて集中していく。ドイツ人にはそういうのは必要ないみたいですね。

原口:そう、ドイツ人選手は切り替えがほんとうに上手い。

久慈:これもドイツらしいなと思うのはファンですね。自分のチームを愛していて、常にすべてを捧げてい
る。写真やサインを求めてくれるのはうれしいです。


正直にお答えください。ベルリンで一番おいしい日本食が食べられるのはどこですか。

久慈:食事はスポーツ選手にとっては非常に大事なので、たいていは自炊しています。贔屓はこれといってありません。ドイツの食べ物も開拓中です。ソーセージは大好きです。

原口:一番おいしい日本食は我が家にあります。嫁さんほど料理がうまい人はいないので!


ドイツ人と日本人ではどんな違いがあると思いますか。

原口:自分の人生を日本人よりもしっかりと楽しんでいる人がドイツには多いと思います。僕はほとんどサッカー中心で。だから選手たちにも言われましたよ。ゲンキ、サッカーが全てじゃない。人生の他の面を完全に無視してはいけないと。これは僕らが学べる部分でしょうね。

久慈:コミュニケーションの取り方もドイツ人の方がうまいと思います。日本だと敏感に反応する人が多いし、言い方にものすごく気を遣います。これが誤解に繋がりやすいんです。


実際、お互いのコミュニケーションは節度が守られていた。それでもこの日本人二人の対面は心温まるものだった。別れ際には自分用にセルフィーを撮り、家族用にサインをし、お互いを自分の試合に招待した。唯一すんなりとはいかなかったのがユニホーム交換。久慈の名前が入ったアイスベーレンのユニフォームはレアアイテムになっていた。ベルリンを訪れた彼の両親が買い占めていたのだった。



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